ウィーンでピアニストに会う

ウィーンの宿で知り合った日本人の女性(以下Kさん)がピアノをやっている人だった。
行ったことのある国の話をしててベトナムの話になった際、
「有名な人形劇見たことありますか?私はすごく楽しみにしてたんですが、6年前は12歳で年齢制限に引っかかっちゃって…」
と言われ、とてもしっかりした感じの子で、自分より少し若いくらいかと思ってたので、かなり驚いた。
聞くと、Kさんは小学生の頃から海外のコンクールや練習会に積極的に参加していたらしく、国際的なコンクールでもガシガシ優勝しているようなスーパーピアノガールだった。

話していてもとても感じの良い子で、こんなに良い子でピアノが素晴らしくて、かつこんなに可愛かったら無敵だなあと感じてたんだけど、それと同時に焦燥感というかやるせなさみたいなものも感じた。
自分の腕ひとつで10代の頃から海外を飛び回って活躍している、スポーツ選手なんかだとそういう人もよくいるけど、改めてそういう人と対面してみると、自分との絶対的な差に愕然としてしまう。
(間違いなく天才であるKさんと間違いなく天才ではない自分を比べることはすごくおこがましいんだけど)

狩野舞子からバレーを好きになったり、石川佳純から卓球を好きになったりしたように、これを機にクラシック音楽も好きになってやろうと思って、ウィーンの国立オペラ座でオペラを見ました。
(そうとう格式高い場所だけど、立ち見席なら400円くらいで見れる)
(女性に釣られすぎな傾向が如実ですが目をつぶってください)

国立オペラ座の内観。最上階の立ち見席からでも舞台がわりとよく見える

立ち見席では自分の場所を確保するために手すりに何かしら目印を付けておく
僕は無難にハンカチを巻いてましたが、前の人はベルトを巻いてた。ワイルド

舞台はわりとよく見えたんですが、多分日本語でもいまいち分からないような初めてのオペラがガツンガツンのドイツ語で展開されて全く理解できず、早々に鑑賞を放棄して音楽を聞きながらぼんやり考えごとしてました。
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前いた会社の上司が「商売のポイントは〜」ということを言っていて、う〜むと思ったことがある。
自分は自分たちの仕事を「ビジネス」と言っていたし、周りの人もだいたいそうだった。
「ビジネス」という言葉は意味合いが広いしカタカナだし、使っているとなんとなくそれっぽい気がするんだけど、実際自分たちがやっていたのは「商売」であって、何かを提供する代わりに対価をもらっていて、どんな建前を掲げていても金儲けであることに変わりはない。
自分はこの商売の世界が好きで入ったし、だからこそ商売人であるということは忘れずにいようとその時感じた。
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サラリーマンを「民間企業に勤める給与所得者のうち、役員や専門職を除いた者*1」とするなら、特にホワイトカラーのサラリーマンは、商人と言い換えてしまってもそんなに問題は大きくないと思う。無理を承知で江戸時代の構図に当てはめるなら、サラリーマンは「士農工商」の商に当てはまる。(ブルーカラーは「工」かな)※1
江戸時代の商人は丁稚奉公で10才前後から店に住み込みで商売を勉強していたらしいけど*2、今のサラリーマンの大部分は大学に行ってから22歳程度で就職する。
Kさんはピアノの世界で10代の頃から世界に羽ばたくことができたけど、商売の世界ではスタートラインに立つのが20代になってから。

端的に言えば、このギャップがもどかしい。
ピアニストの卵が小さい頃からピアノを習い始めるように、現代の商人であるサラリーマンの卵だってもっと若い頃から商売を習い始めたって良いんじゃないか。
アルバイトでもインターンでも何でも良いんだけど、商売に触れる機会がもっとたくさんあれば良いなあと思う。※2
商売が音楽とかスポーツとかみたいに早くからやればというものかどうかは分からないけど、早くやることのメリットが無いかも同様に分からない。
(色んな物ごとはたいてい若い頃のほうが習熟しやすいので、おそらくは商売でもそうなんじゃないかなあという発想)

中学生以下のアルバイトは法的な縛りが厳しい*3ので、ここに何かアプローチするならまずは高校生向けなんだろうけど、高校生向けインターンを提供していた「高校生キャリアバイト」というサービスが2015年に終わってることを考えると、一筋縄ではいかなそう。
単純に、インターンをやりたいっていう高校生がほとんどいないんだろうなあ。

自分の持っている野望として、高校生が大学に行かずに就職する道をもっと選べる社会にしていきたい(高校生の選択肢の拡大)、というのがあるんだけど、それと高校生向けのインターンをセットで進めていくのが良いのかもしれない。
 ・高卒で就職するためにインターンで経験を積む
 ・インターンで経験を積んだから高卒での就職も選択肢に入る
っていう相互作用が期待できそう。
高校生の選択肢拡大の話をすると、「高校生のスキル/経験が足りない」という指摘をよくもらっていたんだけど、インターンをかませることで補完できそう。

とかとか考えていたらオペラは幕間になって、立ち見席で立ってるのも疲れたので途中で帰りました。
荷物をクロークで受け取る際の係の人の「え、帰るの?」っていう表情が心苦しかった。
クラシックの造詣深めていつかリベンジするので許してください。

改めて考えると、Kさんに感じた感情は「負けん気」みたいなもんなんだろうな。
普段自分は「世の中大事なのは勝ち負けじゃないよ」とか言ってるタイプなんですが、実際はけっこう負けず嫌いな気がする。
どういう時に負けん気を感じるかというと、おそらく「世の中にすごいインパクトを出している」とか「人生をすごく楽しんでる」ような人に会った時で、しかも前者を満たしている人は高い割合で後者も満たしているので、そういう人に出会った時がすごい。
やっぱり負けっぱなしは癪なので、自分のやることをしっかりやってこうと思った音楽の都の日でした。


Kさん(黒木雪音さん)の演奏。クラシックのことは全くわからないけど、聞いてて楽しくなる

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※1士農工商って区分は歴史学的に妥当でないそうで、随分前から教科書に載っていないんですね。そう言えば授業でそんなこと聞いたような… *4

※2  個人で商売やればいいっていう考え方もあるだろうけど、就業人口の8割以上が雇用されている人(被雇用者)である現状*5ではマジョリティーである被雇用者にフォーカスしたい


Comments

  1. 勝ちという言葉の意味を「何らかの意味で品質が良い」という意味だけなら「たくさん勝ちたい」と私も思います。でも最近、勝者と敗者という構図って古臭いなって思い始めました。win-winの関係を結ぶ努力をしたり、社会のシステムをwin-winの状態で上手くいくように変革したりすることこそ、21世紀の課題ではないでしょうか? ちょっと真面目すぎるコメント失礼しました〜

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    1. コメントありがとうございます!
      書いていただいてることに僕も基本的に同意なんですが、勝ちをそのように定義した場合、win-winってどのようなものになるんですかね?
      真面目なコメント大歓迎です!

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    2. そうですね。win-loseの関係からwin-winの関係が結べるかどうかは、例えば以下のような点にかかっていると思います。
      ・共通の課題に取り組んでいる他者を敵対視するか、情報を共有し協力するか
      ・既得権益を奪われないように頑なに固持するか、手放してより発展が見込める方向に進むか
      ・自分と異なる考えの人を邪険に扱うか、創造の可能性を見出し心を開くか

      他にもあると思いますが、一言でいうとopen-mindedが大切だと思っています。

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    3. open-mindedはどんな時でも大事そうですね
      あんまり勝ち負けにこだわり過ぎず、マイペースにやっていきます

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  2. 動画見たけど凄い人だなぁ。良い旅してますな!

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    1. ほんと凄い人だよね!今後がすごい楽しみ
      なんだかんだで良い旅になっていてラッキー

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  3. この前後輩から「実はすごく負けず嫌いですよね??」と言われて、「負けず嫌い」って言うのも悔しいから言ってなかったのだなーと思った。

    高校生くらいの年齢の人達の選択肢って、就職に限らず、休息期間や学びの時間、体験の時間としてとか色々広げていきたいものだと私も思うんだけど、就職に関して言うと、「経験・スキル不足」という考えがインターンの受け入れ段階でも引っ掛かりになってしまっている気がする...

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    1. 負けず嫌いっていうのも悔しいってのは面白いけど、たしかにそういう感情ありそう。
      ひろちゃんは内に秘めた負けず嫌いっていう感じがする(笑)

      高校生の選択肢を休息や体験も含めて広げていきたいっていうのは、俺もその通りだなあと思う。
      経験・スキル不足がインターン段階でも引っかかりになるっていうのは、たしかに一定程度あるだろうけど、その不足具合は今の大学生でもそんなには変わらないと思ってる。

      ただ、大学生の方が時間的余裕があるから色々経験できている人がいるのは事実で、そのためにも上に書いたような選択肢の充実が必要そう。色んな要素が絡み合ってて難しい^^;
      特に都内の高校生とか見てると、最近はびっくりするぐらいアクティブに活動している子も多いから、まずはそういう子たちがターゲットになるんだろうなあ。

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