搾取に抗うコスモポリタンでいたい -『スパイの妻』感想 -

映画『スパイの妻』を見た。
愛や正義、演技や展開、演出など、語るべき点がとても多い映画だと思うけど、
個人的には、最近もっぱら考えている、「搾取の構造」というものへの関係性を強く感じた。

ちなみに、この映画にはここ最近見た映画で一番強く刺激を受けた。
(覚えている限り同程度の刺激を受けたのは「シン・ゴジラ」。あの時はシンプルにゴジラの強さに痺れた)


-以下、ネタバレを含みます-

この映画は第二次世界大戦当時が舞台であり、日本の植民地主義を扱っている。
植民地主義の産出した731部隊による人体実験を手厳しく批判し、それに全身全霊で抵抗する高橋一生演じる福原優作がとても格好いい。
人体実験の告発をしようとする彼を止めようとする妻の聡子(蒼井優)に対して言い放つ、

「自分はコスモポリタンだ、僕が忠誠を誓うのは世界共通の正義だ」
という台詞は、とても印象的だった。

---

日本を含む各国による植民地主義はおぞましい搾取を行った。
それが忌むべきものであることを今回改めて痛感したけど、一方で、その搾取は今も「グローバリズム」と名を変えて、日々着々と進行している。
満州の労働者からの搾取で成り立っていて東京の灯りは、関係性が複雑に間接的になって見えづらくなったけど、今も様々な場所で搾取される人たちの犠牲の上に煌々と輝いている。

そして、そのような搾取はあらゆるスケールで脈々と続いている。
「資本主義」「株式会社」「食物連鎖」
あらゆるものが同じ、搾取と繁栄の構造を持っている。

最近、この連環を意識するようになってから、なんとかそれに囚われない、足るを知ることで自然な自由を手に入れる生き方をしたいと考えているけど、
ことが食物連鎖などに及んでしまうと、この問題を乗り越えるのはかなり厳しい。
ヴィーガンやオーガニックという思想も最近一定興味を持っているけど、まだそれらを完全に自分の生き方に据えるような覚悟はできていない。
搾取の慣性はとても力強く、生存を本能としている生物にとって、その力に身を任せることは楽だから、慣れてしまったその構造から抜け出すのは、それを上回る強度の意志と実践の力が必要になる。

結局自分は、この映画を見て、自らの信念に従って慣性を一切無視して生きる優作や、その優作と一緒に生きることを自分の第一理念として、同じく慣性に囚われずに生きた聡子に、憧れたのだろう。
(そして、日本の軍部という巨大な慣性のなすがままに流されて、自身が本来目指していた生き方をできなくなった泰治(東出昌大)を憐れに思った)

--- 

自分は見栄っ張りなので、他人から憐れまれるのは嫌だし、自分が好きな自分でいたい。
そのためには、おそらく強い覚悟が必要だ。
人類を蹂躙する搾取の力に抗うのは、でも、これも恐らく人間にとても特徴的な共感の力を原資とした、コスモポリタンの精神だ。
そういう意味では、この戦いはとても分が悪いように見えて、意外と救いもある。
人間はとても弱くて、とても強いのだ。

Comments

よく読まれている記事