中国の文化砂漠に育っていた立派なサボテン -「ライオン少年2」を見ての感想-

 2025年の元旦に、北京でライオン少年(雄獅少年)という中国の映画の第二作を見た。
これが傑作だった。

(この映像はライオン少年1のもの)

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 僕の奥さんは中国人だが、中国を「文化砂漠」と言っている。
奥さんは中国の小説をよく読んでいるが、それらはどれも明の時代(1368~1644年)のものである。それ以降に中国で読むべき小説は生まれていないと言っている。
中国のドラマや映画は、俳優は多くが顔採用をされており、口パクらしい。
文化大革命で伝統的な有形/無形の文化がことごとく破壊されたことは明確に一因としてあるだろう。
僕も、中国語を学ぶために中国のエンターテインメントでハマれるものが無いかとけっこう探したが、たしかにハマり込めるものは見つけられなかった。

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 今の中国の技術力と社会への実装力はすごい。
キャッシュレス決済が町中の屋台にも浸透しているのは有名な話だが、それ以外にも、EV(電気自動車)は大都市では約半数を占めるほどに増えてきており、高度なソフトウェアとEVを合わせた体験は日本での自動車体験とは段違いであり、日本に戻るたびに「一昔前に帰ってきた」という感覚を覚える。
ホテルでデリバリーを頼むと、ロボットが部屋まで運んできてくれる。(このロボットは基本的に道を譲ることがなく、エレベーターの出入りでもまわりに容赦なく進むので、ちょっとイラッとするが、技術の導入期はこれぐらい粗削りで良いんだよなとも思う。)

 そんな様子を見て、
「中国の技術的には進んでいるし、これからも日本はどんどん遅れていくのだろうけど、日本には文化がある。
日本のように、新作の漫画が次々と作られ、4半期ごとに大量のアニメが放映され、グッズやゲームも含めたエコシステムも生み出してるような国はない。
仮に今後10年で日本の自動車産業が崩壊しても、日本の文化産業のレベルには中国も簡単には追いつけないだろうし、日本はここで勝っていくんだろう。」
と思っていた。
最近出たポケポケが大きく成功しているのを見ても(実際は見るだけでなくヘビーユーザーとして毎日遊んでいる。ギャラドスに勝てない。)、
「まず漫画やアニメでIPを育てて、それをゲームとして展開して大きく外貨を稼いでいく」
というスキームが今後の日本の生き残る道なんだろうなと実感を強めていた。

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 甘かった。中国人を舐めていた。
たしかにこれまで数十年かそれ以上に渡って中国は文化砂漠だったかもしれない。
でも、今回のライオン少年2を見て、奥さんは
「今まで見た中国の映像作品で一番良かった」
と言っていた。(奥さんはコンテンツ鑑賞が趣味なので、かなり多くの作品を見ている)
自分も同じ感想だし、2025年の自分的No.1映画の座を元旦に見たこの作品に奪われる気配がぷんぷんしている。
これは、明らかに砂漠に生えた芽だ。
いや、映像・シナリオ・音楽・演技、など全てが最高水準なこの規模の3D CG長編アニメ映画を作れるということは、もう立派なサボテン(?)だ。

 奥さんいわく、2014年に公開された「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」の大成功から、同様の3D CGアニメ映画のブームが中国で起きてきているそうで、今回のライオン少年もその流れを汲んでいる。
「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」の田監督は、資金難などの苦労もありながら、8年かけてこの映画を制作したそうだ。つまり、2006年からこの芽は育ち始めていたのだ。
そこから18年経って全てが芽吹いたのが今回のライオン少年2であり、中国の3Dアニメ文化は今後大きく花開いていくだろう。

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 今回の映画を見ている間中、自分が感じていたのは、中国人の粘り強さだ。

 中国は極めて休みが少ない。長い休みが年に2回ぐらいあるが、それ以外は祝日もほとんどなく働いており、土日も働いていたりする。残業もめちゃめちゃする。
国全体として完全にブラックが常態化しており、個人の幸せは必ずしも最大化されていなさそうだが、集団としては圧倒的なアウトプットを出す源泉になっている。

数千年かけて気づいてきた文化的土壌が全て意図的に破壊されても、経済成長に苦労し生活が苦しくても、様々な民族的・政治的課題を抱えていても、ようやく成し遂げた経済成長の先の未来が今暗くても、腐ること無く努力して、こんな作品を世に放つことができる。
ライオン少年2は貧しい主人公たちが圧倒的強者に立ち向かっていく話なのだが、そこに自分は中国人という集団を重ねて見た。

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 今回の一連を踏まえて、「中国はすごい」とか「日本は焦らないといけない」とか言いたいわけではない。
今回の映画製作に携わった1つの集団が成し遂げた偉業を目の当たりにして、素直に感動して称賛する気持ちが大きい。
その上で、中国の3D アニメ映画シーンはこれからさらに盛り上がるだろうし、それは中国の他の文化領域にも展開していくだろう。それに期待はある。
日本は、これを良い刺激にし、良い好敵手の誕生を喜べばいいと思っている。
いち消費者として、これらの競争から生まれる新しい作品・文化を受容できることをとても楽しみに思う。
いち生産者として、マクロ的に置かれた状況が苦しくても、ミクロには腐らずにやり続けてれば成功はしうるし、逆にやり続けないと明確に成功はないことを肝に据えたい。

 ひたすら頑張ることは中国人だけの才能ではないし、人類みんなで大事にしていきたいね。

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ライオン少年1は2024年5月に日本でも上映したそうです。(見てない)
ライオン少年2は2025年1月現在は日本では見れないと思います。興行的にはあまりうまくいっていないそうで、日本で上映されるかはちょっとわかりません。興行面だけは残念ですが、育った土壌は簡単には崩れないはずなので今後に期待しましょう。

Comments

  1. この映画は中国政府の支援で作られており、第三作も準備が進んでるらしい。良かった~~

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  2. ライオン少年1もYouTubeで購入して見ました。悪くなかったけど、2に比べるとかなり見劣りする部分が多かったです。逆に、この数年でどれだけ成長したのかを考えると震えます…

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